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福島地方裁判所 昭和28年(ワ)6号 判決

反訴原告の賃借権の確認を求める請求を棄却し、賃料の確定を求める反訴を却下する。

訴訟費用中本訴について生じた部分は本訴原告の負担とし、反訴について生じた部分は、反訴原告の負担とする。

二、事  実

本訴原告(反訴被告。以下原告という。)訴訟代理人は、本訴につき、「本訴被告福島県知事(以下被告知事という。)は原告に対し郡山特別都市計画土地区劃整理第一地区第七号ブロック第八号(イ)の住宅地四九坪(以下本件換地という。)の地上物件を撤去して右宅地を引渡せ。本訴被告内山(反訴原告。以下被告内山という。)が本件換地上に何らの賃借権をも有しないことを確認する。被告らは原告に対し連帯して九五、八五〇円及び昭和二八年一月一日から本件換地引渡に至るまで毎月三、〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」との判決を求め、反訴につき、先ず訴却下の判決を求め、反訴が適法であることを条件として、「被告内山の請求を棄却する。訴訟費用は被告内山の負担とする。」との判決を求め、本訴請求原因として、

(一)  原告は郡山市字燧田一七四番地宅地七八坪(更正面積八二坪五勺。以下旧宅地という。)を所有していたが、被告知事は、特別都市計画法に基く郡山特別都市計画事業の執行者(以下事業執行者という。)として、旧宅地を含む郡山駅前附近の土地区劃整理を施行し、旧宅地を郡山駅前道路敷と決定し、昭和二四年四月一一日その換地として本件換地を指定した。従つて、被告知事は、本件換地上の物件を撤去し、更地としてこれを原告に引渡す義務があるのに、原告と被告内山との間に右換地の賃借権について争いがあるとの理由で、未だに引渡をしない。しかし、このような理由で引渡を遅らせることはできないから、被告知事に対し地上物件の撤去と本件換地の引渡を求める。

(二)  被告内山は、本件換地を原告から賃借していると主張し、その地上に建物を所有しているが、何らの賃借権をも有しないのであるから、同被告に対しその不存在の確認を求める。

(三)  右のように、被告知事は事業執行者として、被告内山は不法占拠者として、いずれも本件換地を原告に引渡す義務があるのに、被告らは、前記都市計画事業の区劃整理委員らの策動により、互いに通謀して引渡を遅らせている。このため、本件換地を店舗又は事務所の敷地として使用しようとする原告は、換地指定のあつた昭和二四年四月一一日以後、その地代に相当する額の損害を被つているが、昭和二四年四月一一日から昭和二七年一二月三一日までの損害額は、末尾添附損害額明細書記載のとおり合計九五、八五〇円であり、昭和二八年一月一日から本件換地引渡の日までの損害額は一ケ月三、〇〇〇円ずつであるから、被告らに対し連帯による右金員の支払を求める。

とのべ、被告内山の反訴に対する本案前の抗弁として、

(四)  被告内山は、昭和二六年一一月二一日、福島地方裁判所郡山支部に罹災都市借地借家臨時処理法に基く申立をし、右申立は現在同支部に係属しているが、本件反訴は、右申立と同一の裁判を求めるものであり、二重に提起された訴として不適法である。

と主張し、被告内山の抗弁及び反訴請求原因に対する答弁として、

(五)  被告内山が抗弁及び反訴請求原因として主張する事実(三)の(イ)の中、原告が大正五年旧宅地の一部(ただし、坪数は三七坪六勺である。)を高橋久太郎に賃貸し、大正一四年内山亀市(ただし、坪数は約四〇坪であり、賃借人は亀市と高橋重太郎との二人であつた。)に賃貸したこと、亀市が旧宅地上の建物で内山館という旅館を経営していたことは認めるが、その他の事実は不知。同(ロ)の中、亀市が昭和二六年六月二一日に死亡し、その家督相続人が内山真一であつたこと、亀市の妻力子が昭和九年五月二日真一の戸籍から分家したことは認めるが、亀市死亡後力子が原告の承諾をえて前記賃借権を承継し、昭和二年から一八年間原告に旧宅地の賃料を支払つてきたとの点は否認する。その他の事実は不知。もつとも力子が原告方に賃料を持参したことはあるが、これは、亀市又はその家督相続をした真一の使者としてである。同(ハ)の中、昭和二〇年四月一二日の空襲で旧宅地上の建物が焼失したこと、力子が本件換地上にマーケット式建物を建て、その一部で自転車預り業を営んでいたこと、昭和二四年一二月五日力子が死亡したことは認めるが、本件換地に力子が賃借権を有し、これを被告内山が承継したとの点は否認する。その他の事実は不知。

(六)  このように、原告は力子に旧宅地の全部又は一部を賃貸したことはなく、また、旧宅地に対する亀市の賃借権は真一が相続したのであつて、亀市の死亡によつて同人との婚姻が解消され、その後分家した力子は、旧宅地に対し法律上何らの権限をも有していなかつた。もつとも、力子は、借地借家臨時処理法に基き、昭和二三年九月一四日発送、同月一五日到達の内容証明郵便によつて、原告に対し賃借希望の申込をしてきたので、原告はこれを拒絶したが、力子にはこのような申込をする権限もなく、また、その申込も法定期間経過後になされた(期間内であるかどうかは到達の日によつて判断すべきである。)のであるから、これによつて申込の効果は生じない。なお、それ以前に、真一又は力子から賃借希望の申込はなかつたし、原告がこれを承諾したこともない。

(七)  従つて、旧宅地又は本件換地について賃借権を有しなかつた力子から、被告内山がこれを承継するわけはないから、被告内山の本訴請求に対する抗弁及び反訴請求は理由がない。

とのべた。<立証省略>

被告知事指定代理人は、本訴につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本訴請求原因に対する答弁として、

(一)  原告請求原因事実(一)の中、被告知事が、原告主張のような土地区劃整理を施行し、昭和二四年四月一一日、原告所有の旧宅地に対する換地として、本件換地を指定したが、その賃借権について原告と被告内山との間に争いがあることを理由に、原告に対する引渡をしないでいることは認める。その他の事実は否認する。同(二)の事実は不知、同(三)の事実は否認する。

(二)  本件換地は、特別都市計画事業の土地区劃整理のため、原告の旧宅地に対する換地予定地として指定されたものである。事業執行者は、換地予定地を指定した場合、その地上に工作物があれば、特別都市計画法第一五条及び行政代執行法によつてこれを撤去し、従前の土地の所有者に予定地を引渡すことができるけれども、必ずしもこの権限を行使しなければならないわけではなく、右計画法第一四条により、予定地指定の日とは別に使用収益開始の日を定め、使用収益不能による損害を補償することもできる。本件においては、換地予定地の賃借権について争いがあり、地上の建物を撤去すれば、その所有者である被告内山の憲法上の権利を不法に侵害するおそれもあるので、事業執行者である被告知事は、この争いが解決してから適当な措置をとるのが妥当であると考え、原告に対する換地予定地の指定に際し、備考として別に使用収益開始の日を定めることを通知しておいた。このように、被告知事は、原告に対し地上建物の撤去と本件換地の引渡とを義務づけられているのでもないし、また、正当な理由によつて引渡を延ばしているのであるから、原告の被告知事に対する請求は理由がない。

とのべた。<立証省略>

被告内山訴訟代理人は、本訴につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、反訴につき、「原告所有の本件換地のうち四五坪について被告内山が賃借権を有することを確認する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決及び判決による右賃借部分の昭和二〇年七月一日以後における時価に相当する賃料額の確定を求め、本訴請求原因に対する答弁として、

(一)  原告請求原因事実(一)の中被告知事が原告主張のような土地区劃整理を施行し、原告所有の旧宅地に対する換地として、昭和二四年四月一一日、本件換地を指定したことは認めるが、その他の事実は不知。同(二)及び(三)の事実を否認する。被告内山は本件換地のうち四五坪について賃借権を有するから、その不存在確認及び損害金の支払を求める原告の請求は理由がない。なお、仮に、被告内山が本件換地を使用する権限を有しないとしても、原告は、換地予定地として指定された本件換地の占有を始めていないのであるから、その使用収益ができない場合にも、被告知事に特別都市計画法第一四条による損害の補償を求めることができるだけであつて、被告内山に損害賠償を求めることはできない。

(二)  後にのべるように、被告内山の先代力子は、本件換地のうち四五坪及びその隣地を所有していたので、昭和二二年右両地上にマーケット式建物を建て、これを三つの部分に分けてその一部をみずから使用してきた。原告は、すでに力子の占有する土地、即ち、負担附の土地を旧宅地に対する換地予定地として指定されたのであるから、予定地指定の処分に対して不服を申立てることはできるけれども、事業執行者である被告知事に対し、予定地上の建物の撤去等を求める権限を有しない。殊に、事業執行者が、特別都市計画法第一五条により、予定地上の建物の所有者にその撤去を命じ、行政代執行法によつてみずから撤去することができるのは、建物所有者が予定地を不法に占有している場合に限るのであるから、被告知事は、旧宅地に対する賃借権によつて本件換地のうち四五坪を占有する被告内山に対し、右の権限を発動することはできず、原告がこれを求めえないのは当然であつて、被告知事に対する原告の請求も理由がない。

とのべ、本訴請求に対する抗弁及び反訴請求原因として、

(三)(イ)  大正五年原告から建物所有の目的で旧宅地のうち六三坪を賃借した高橋久太郎は、その地上に、木造瓦葺二階建居宅一棟(建坪五四坪、二階坪五四坪)及びこれに附属する鉄鋼亜鉛メッキ鋼板葺二階建店舗(建坪六坪、二階坪五坪)を所有していたが大正一四年右建物の二分の一の持分を被告内山の先代力子の夫亀市に譲渡し、昭和二年残りの二分の一の持分をも亀市に譲渡し、右両建物は亀市の所有となつた。もつとも、昭和二年の持分譲渡については、亡松本長吉に対して持分移転の登記がなされたけれども、これは、亀市の松本に対する借金の担保のため、松本を名義上の譲受人としただけで、真実の譲受人は亀市であつた。そして、亀市は、大正一四年原告の承諾を得て右六三坪の部分の賃借権をも譲受け、妻力子とともに、右建物で内山館という商号の旅館を経営した。

(ロ)  昭和二年六月二一日亀市が死亡したので、力子が内山館の経営を引継ぐことになり、右建物の所有権及び旧宅地の賃借権を譲受け、賃借権の譲受については原告の承諾をえた。もつとも、亀市の名義となつていた右建物の二分の一の持分は、亀市の死亡によつて家督相続人内山真一に対して移転登記がなされたけれども、これは、登記簿上そうなつただけのことであり、また、昭和八年七月一五日前記松本に対して右持分の移転登記がなされ、右建物は登記簿上松本の単独所有となつたけれども、これも、前と同じく債務担保のための架空のものであつて、亀市の死後右建物はずつと力子の所有であつた。なお、力子は真一の継母であつたため、同人との間がうまく行かず、昭和九年五月二日真一の戸籍から分家したが、亀市死亡以来単独で旅館及び飲食店を経営し、昭和一九年一〇月一三日、松本に借金を返済し、前記建物につき同人から所有権移転登記を受けた。仮に、亀市から力子への旧宅地賃借権の移転について疑があつたとしても、力子が亀市死亡以来一八年間旧宅地上に建物を所有し、旅館及び飲食店を経営してきたのに対し、原告は、異議ものべないで力子からその賃料を受取つてきたのであつて、暗黙の中に力子に対する賃借権の譲渡又は転貸を承諾したといえるから、力子はやはり旧宅地について適法な賃借権を有していたわけである。

(ハ)  ところが、昭和二〇年四月一二日の空襲で右家屋が焼失し、その後原告主張のような経過で旧宅地に対する換地予定地として本件換地が指定された。この結果、旧宅地のうち六三坪を賃借していた力子は、本件換地のうち四五坪に対しても賃借権を有することとなつたが、この部分及びこれに接する郡山特別都市計画土地区劃整理第一地区第七号ブロック第八号(ロ)の宅地五二坪は、もと力子の所有であつたから、力子は、昭和二二年右両地に三戸続きのマーケット式バラック建物(建坪四二坪)を建築所有し、みずからその一部を使用して自転車預り業を経営し旅館の再建をも計画していたが、昭和二四年一二月五日死亡した。被告内山は、昭和二四年一一月三〇日附福島地方法務局所属公証人中島十蔵作成第二三四五〇号遺言公正証書に基く遺贈により力子死亡とともに、右賃借権及び土地建物の所有権を取得し、賃借権の取得については、これを原告に通知した。仮に、被告内山が右賃借権の遺贈を受けなかつたとしても、同被告は力子の遺産相続によつてこれを取得した。

(ニ)  このように、被告内山は、本件換地のうち四五坪につき賃借権を有するのであり、原告が力子又は被告内山に対し旧宅地上建物焼失後借地借家臨時処理法による賃借権消滅の申出をしたこともないのであるから、その不存在の確認を求める原告の本訴請求は理由がなく、また、原告は被告内山の右賃借権の存在を争うので、原告に対しその存在の確認を求める。次に、右賃借部分の賃料について、原告と被告内山との間で直接協定することは困難であるから、昭和二〇年七月一日以後の分につき、時価相当額によるその確定を求める。

(四)  特別都市計画事業による土地区劃整理において、換地処分がなされた場合の法律関係は次のとおりである。

(イ)  都市計画法第一二条によつて準用される耕地整理法第一七条第一項によれば、換地として指定された土地は従前の土地とみなされるのであるから、従前の土地について存在していた一切の権利は、換地について当然承継される。本件において、力子は、旧宅地のうち六三坪を賃借していたのであるから、本件換地についても当然賃借権を有することになつたわけである。もつとも、特別都市計画法施行令第四五条、耕地整理法第三三条によれば、従前の土地の全部又は一部について存した所有権以外の権利で登記のないものについて、その権利者は、土地区劃整理施行地区の告示があつた日から一ケ月以内に、土地所有者と連署し、又は、権利を証する書面を添付して、事業執行者に届出で、事業執行者は、この届出があつた場合、その権利の内容及び範囲を指定して換地を交付することになつている。しかし、この規定は、事業執行者が登記のない権利を直接調査するのは困難であるから、届出のあつた場合にだけ、権利の内容及び範囲の指定をすればよいことを定めた規定であつて、届出のない場合にも、権利そのものが消滅するわけではない。従つて、力子及び被告内山は、この届出をしなかつたけれども、本件換地の賃借権を失つてはいない。

(ロ)  次に、本件換地の指定は、換地予定地としての指定にすぎず、換地処分が終局の効力を生ずるのは、耕地整理法第三〇条第三項による都道府県知事の認可があつてからであるが、特別都市計画法第一四条によれば、換地予定地の指定があつた場合、予定地指定の通知があつたときから換地処分が効力を生ずるまでの経過的措置として、従前の土地の所有者又はその他の権利者は、従前の土地の使用収益を禁止されるとともに、権利の内容に従つて換地予定地を使用収益しうることが定められている。この使用収益権は、公法上の権利であるけれども、換地予定地の指定によつて、従前の土地の所有者その他の権利者に対し、当然に認められる権利であるから、旧宅地の賃借権者であつた力子及びその承継人である被告内山は、旧宅地に対する権利の内容に従つて予定地を使用し、旧宅地の所有者であつた原告に対し、使用収益を請求することができる。

とのべ、反訴に対する原告の本案前の抗弁に対し、被告内山は、原告主張の申立をしたが、これを取下げた、とのべた。<立証省略>

三、理  由

被告知事が、特別都市計画法に基く郡山特別都市計画事業の執行者として、原告所有の旧宅地を含む郡山駅前附近の土地区劃整理を施行し、旧宅地を郡山駅前道路敷と決定し、昭和二四年四月一一日、その換地として本件換地を指定したことは当事者間に争いがない。以下原告及び被告内山の各請求について順次判断する。

第一、原告の被告知事に対する請求

(一)  建物撤去土地引渡を求める部分

被告知事が本件換地上の建物を撤去せず、まだ本件換地を原告に引渡していないことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一、第二号証及び弁論の全趣旨によれば、本件換地の指定は、終局の換地処分としてのものでなく、換地予定地としての指定にすぎないことが認められる。特別都市計画法第一三条、第一四条、第一五条及び行政代執行法によれば、特別都市計画事業による土地区劃整理において、事業執行者は、必要がある場合換地予定地を指定し、これを従前の土地の所有者及び関係者(従前の土地を使用する権利のあつたもの)に通知し、これらのものは、この通知を受けた日の翌日から換地処分が効力を生ずる日まで、従前の土地に対する権利の内容に従つて、換地予定地を使用収益することができ、また、事業執行者は、予定地上に建物その他の工作物を所有するものに対し、その移転を命じ、これに応じないときはみずから代つて執行することができる。しかし、従前の土地の所有者及び関係者が事業執行者に対し、権利としてこの権限の発動を求めることができることについては、関係法令に何の規定もないのであるから、前記のような権利はないものと解するほかはない。また、使用収益のための予定地の引渡についても、関係法令に規定がないけれども、特別都市計画法第一四条によれば、予定地指定の通知のあつた日の翌日(使用収益開始の日が別に定められたときはその日)から、従前の土地の所有者及び関係者は、予定地を使用収益することができるのであるから、引渡という手続の存する余地はなく、従つて、所有者及び関係者が知事に対してこれを求めることはできないものであり、またその必要もないものといわなければならない。そうとすれば、本件において、事業執行者である被告知事に対し、換地予定地である本件換地の引渡を求める原告の請求が理由のないことは、その他の点について判断するまでもなく明らかである。

(二)  金員支払を求める部分

被告知事が本件換地を原告に引渡していないことは前記のとおりであるが、被告知事に右引渡義務のないことも前段で認定したとおりである。そして被告知事が被告内山その他と共謀の上、右引渡及び地上建物の撤去を遅らせているとの点については、何らの証拠もない。もつとも、被告知事が本件換地の指定を原告に通知するに際し、使用収益開始の日を別に定めると附記したことは、原告の明らかに争わないところであり、甲第一、第二号証によれば、被告知事は、本件換地の賃借権について原告と被告内山との間に存する争い(正確にいえば、旧宅地について被告内山が賃借権を有していたかどうか、従つて、本件換地を使用収益することができるのは原告であるか被告内山であるかについての争い)の解決を待つて適当な処置をするつもりで右のような附記をしたものと推認される。それゆえ原告は特別都市計画法第一四条第三項及び第五項によつて被告知事に損害の補償を求めることはできるわけであるが、被告知事の不法行為を原因とする損害賠償の請求は、理由がない。

第二、原告の被告内山に対する請求

(一)  賃借権不存在確認を求める部分

前認定のように、昭和二四年四月一一日の本件換地の指定は、換地予定地としての指定にすぎない。そして、換地処分は、耕地整理法第一七条、第三〇条第四項によつて都道府県知事の認可の告示があつた日に終局的に効力を発生するのであつて、その間の法律関係は特別都市計画法第一四条の定めているところである。即ち、換地予定地の指定とともに、従前の土地の所有者及び関係者は、その使用収益を禁止されるが、従前の土地に対して有した権利の内容に従つて、予定地を使用収益することができる。しかし、このことは、所有者及び関係者が従前の土地に対する権利そのものを失うことを意味するのでも、換地予定地について所有権その他の権利を取得することを意味するのでもなく、単に前記のような予定地の使用収益権を取得するだけのことである。従つて、原告はまだ本件換地の所有者ではなく、また次に認定するように本件換地について使用収益権を有するものでもないから、原告の被告内山に対する賃借権不存在確認の請求は、理由がない。

(二)  金員支払を求める部分

被告内山が右換地に建物を所有していることは当事者間に争いがない。しかし換地予定地である本件換地の使用収益に関する法律関係は前記のとおりであり、被告知事が本件換地に対する原告の使用収益開始の日を別に定める旨原告に通知したことは、先きに認定したところである。従つて原告は、本件換地につき未だ使用収益権を有しないわけであるから、被告内山が、右換地に建物を所有していても、原告にはこれによつて侵害される本権がないわけである。換言すれば、被告内山は、右建物所有によつて、何等原告の権利を侵害しているものではないから、原告の金員支払を求める部分も理由がない。

第三、被告内山の原告に対する反訴請求

(一)  原告の本案前の抗弁

原告は、被告内山の反訴が二重起訴禁止の原則に反する不適法のものであると主張し、被告内山が、本件換地につき、昭和二六年一一月二一日、原告を相手方として、福島地方裁判所郡山支部に対し、罹災都市借地借家臨時処理法による申立をした事実は、当事者間に争いがないが、同法による申立は、従来存在しなかつたか、あるいは、すでに消滅した借地権の設定、譲渡等に関するものであつて、従来から存在している賃借権の確認及び賃料の確定を求める本件反訴と右申立との間に同一性があるとはいえないから、右申立取下の有無について判断するまでもなく、原告の右抗弁は理由がない。

(二)  賃借権の確認を求める部分

前記第二、(一)で原告の請求について判断したのと同一の理由により、この点に関する被告内山の請求は、土地の所有者でない原告に対するものであつて、失当たるを免れない。且つ仮に被告内山が旧宅地について賃借権を有していたとしても、本件換地については使用収益権を有するだけで、未だ賃借権を有するものではないから、この点からするも被告内山の請求は理由がない。

(三)  賃料の確定を求める部分

被告内山は、本件換地の賃料について原告と協定するのが困難であるから、判決によるその確定を求めるというのであるが、このような形成の訴は、法律によつて特に定められた場合にのみ許されるのであつて、被告主張のような場合に、裁判所が判決によつて賃料を確定することを許した法律上の根拠はないから、この点に関する被告内山の訴は裁判所の権限に属しない事項に関する不適法なものである。

第四、結論

以上のような理由であるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 西川正世 鈴木義男)

★ 損害額明細書

一金、八、一九三円

昭和二四年四月一一日より同年一二月末日まで九ケ月二〇日分、

一金、八、三九〇円

昭和二五年一月一日より同年七月末日まで七ケ月分

一金、一一、四五八円

昭和二五年八月一日より同年一二月末日まで五ケ月分

一金、二二、五四〇円

昭和二六年一月一日より同年九月末日まで九ケ月分

一金、九〇、二七三円

昭和二六年一〇月一日より同年一二月末日まで三ケ月分

一金、三五、九九六円

昭和二七年一月一日より同年一二月末日まで一二ケ月分

以上合計金、九五、八五〇円

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